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象牙色の立体

映画などについて書きます。

シン・ゴジラ

シン・ゴジラを観た。そして、本年度ベスト級であった。

 

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はっきりいって序盤はキツかった。会議シーンのチャカチャカとした鼻につくカット割り、最初にちらとみえるゴジラの尻尾のCGの雑さ、英語の発音がさほど上手くない時代錯誤的な出来る女を演じる石原さとみなど、あらゆる不安要素の数々に「これはまずい...」という暗い気持ちが覆った。日本でもうゴジラは無理なのか...辛い...

 

しかし、それを圧倒的にグロテスクなゴジラの登場が救ってくれた。あまりに見た目が気持ち悪すぎる。映画を見ていて「気持ち悪い化け物だな」と思うことはあまりないのだが、シン・ゴジラは気持ち悪すぎてゾッとした。目が死んだ魚のようで、口をだらしなく開けたまま、体液をまき散らしながらどろどろと移動する。そして、気持ち悪すぎて嫌悪感MAXのゴジラ造形により、それまでに定着しきったゴジラのヒーロー性を一旦リセットし、そのビジュアルだけで原典の恐怖の存在としてのゴジラに回帰させた。そこからは、一向に進まない会議や愚かな官僚、これはまるで岡本喜八監督作品のようだ。庵野監督は喜八監督大好きらしいからね。昔激安で購入した庵野監督自身の喜八ベスト「激動の昭和史 沖縄決戦」もう一度見てみよう。

 

実際シンゴジラはほとんど庵野作品そのものだ。なんと会議シーンではエヴァのあの音楽も登場する(しかも3回も!)。庵野監督らしいなーという描写も多数ある。例のフォントは当然として(実際は少し違うらしいが)、BGMとともに鉄道や町の様子が映されるシーンとか、コンテナや鉄塔などごちゃごちゃとしたものを映すところも彼らしい。ゴジラ退治作戦の名前を○○作戦にしてみたり。また、不確かな情報によると、ゴジラとのラストの戦闘シーンに主人公が立っている場所は太陽を盗んだ男沢田研二菅原文太が戦うところなのだそうだ。エヴァ新劇に太陽を盗んだ男の曲が使われていたときは驚いたものである。

 

会議中に流れるあの音楽(臆すことなく使っていて笑った)

 

 

(ここから音楽を流したままでもいいですよ。)さて、日本では上部の決定がすべてである。電話を介して何度もやり取りをしている間に、どんどんゴジラは変態する。指令がないと何もできない。全く攻撃ができない。自衛隊が民間人を爆撃すると世論的にやばいのは確かにわかる。でもうざい。だらだら長い。鬱陶しい官僚制度にだんだんと観客は嫌気がさす。そんな中で、ついにゴジラが覚醒するのである。暗夜の中、ゴジラ放射能火炎をまき散らす。文字通り日本を破壊しつくす姿はまさに神に見えるような説得力。ここでシンゴジラは、CG面では完全に勝っているであろうギャレス監督版ゴジラよりもカッコよく、神々しく、そして恐ろしくなるのだ。

 

その後、すべてを失い一度負けた男たち、官僚のはずれものたちが焼け野原のなかから結託して超法規的手段を作ってまでゴジラを倒そうと画策する。これまでとは異なり、体裁ではなく、ゴジラを倒すという一つの目的に突き進む。ゴジラという神が、腐敗した日本構造を文字通り破壊したことによって、一から理想的な社会構造を構築していくように見える。しかしその刹那に訪れる危機、歩く原爆と呼ばれるゴジラの存在によってもたらされる人為的危機の非常に皮肉な展開、おいおい普通ここまでやるか。この段階では、チャカチャカとしたカメラ割もスピード感を上げて、心地よい興奮を与える。

 

また細かいところで言えば、一度大声で叫んでしまった長谷川博己を落ち着けと諭すような自己批評的シーンも面白かった。同監督の巨人のように、大声で叫ぶだけの映画に碌なものはないというのは、最近では聴き古した理論である。ただそれでも石原さとみだけは最後まで辛かったけど、あれは昔のバブル時代的なヒロインのオマージュなんですかね。そう言えばエヴァも大人同士の会話は片腹痛かったな、と思い出したりもしたが。同じヒロインで言えば、変人研究者の市川実日子が断然良いですね。

 

結果的に、シンゴジラは最近の日本映画には失われたような、非常に強いメッセージ性が込められた映画になっていた。当時岡本喜八本多猪四郎が込めたようなメッセージ性を、現代の大作でも込めたその心意気に感動している。そのメッセージの内容に賛否はあれど「メッセージ性を込めることができた」ということ自体に大きな意味がある。ラストに映し出されたのは原典のゴジラと同じく英霊の象徴だろうが、ここ数年間表現の自由を封殺されてきた映画監督たちの象徴のようにも見えたのだった。シンゴジラがこのまま邦画業界の通念を破壊し、自由な表現が可能な時代に少しでも戻るようなことがあればと願う。

 

ああ今すぐにでも、もう一度、東京を破壊しつくすゴジラを観たい。あの大規模な赤い火焔から、徐々に青みを増し一点に収束していく放射能火炎を地面から上空へ、360度放射する姿を観たい。

 

 


特撮とCGをうまく組み合わせていてCGよりもリアルに見えるシーンは数多くあった