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象牙色の立体

映画などについて書きます。

アルコール・ハラスメント映画史上最凶の傑作「荒野の千鳥足」

狂気、殺戮、泥酔

 

映画を強烈にする三条件が全て揃った最凶の映画「荒野の千鳥足」を観た。

そして、これがとんでもなくヤバい映画でだったのだ。

 

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これは日本未公開の異色映画を紹介する「初公開! 世界のどす黒い危険な闇映画」の第1弾として、2014年に公開された作品であり、最近ではあのウルフ・オブ・ウォールストリートを監督したことで有名なマーティン・スコセッシをして「すさまじいほどに不快な映画」と言わしめたほどの衝撃作である。マッドマックスのジョージ・ミラーもオーストラリアの監督たちに強烈な影響を与えた作品と言っているほどだ。40年の時を経てついに公開されたこんな「ヤバ過ぎる」映画を紹介するのもどうかと思うが、本当に面白かったのであえて紹介したい。

 

とにかく、この映画を一言で表現すると、ただ主人公が酔っ払い続けるだけの映画である。本当にただそれだけなのだ。以前マルカム・ラウリーの「火山の下」というアルコール中毒小説でも史上最凶の傑作を読んだが、それを彷彿とさせるほどのアルコール中毒(alcoholic)がもたらす白昼夢感が凄まじく、非現実と現実の不明瞭感の表現によってこちらまで酔っぱらってしまう。果たしてどこまでが現実でどこまでが夢なのか。そのようなアルコール中毒特有の経験を追体験することが可能なのだ!

 

主人公である、教師のジョンはただ恋人に会うために、冬休みにシドニーに行こうとしただけだった。その途中で立ち寄ったとある田舎町のバーで酒を飲んでいると、その町の保安官に善意でお酒を振舞われる。それを飲んでしまった時点で終わりだった。ありがたく奢ってもらったビールを飲んでいると、もう止まらない。もう一杯飲まないか?と目で合図してくる、もう一杯、もう一杯、酒飲みとしてもありがたいことだが。

 

泥酔してきたところで、二次会である。そうこうしているうちに、今度は賭博だ。コイン投げの賭けに、出来心で挑戦してみると、思わず勝ってしまう。もっと金を、もっと金を、酒の酔いに任せて賭けをしているうちに有り金をすってしまって無一文に。さて、もう町から出られないどうする、と考えながらバーにいると、再びお酒をおごってくれる「善意の男」が現れるのだ...さあおごりだ、酒を飲もう酒を飲もう酒を飲もう!!

 

そう、この映画に登場するこの町にいる人間には悪役がいない。悪意に巻き込まれるのではなく、善意に巻き込まれていく。「お酒を飲んで一緒に楽しもうじゃないか!」という町の人たちの善意を断りきれずに、主人公はどんどん破滅していくのだ。

 

町の人間の男たちは、なんの楽しみも存在しない田舎町でただ快楽を求めて酒を飲んで、狩りをし、放蕩の限りを尽くそうと努力しているだけの人間たちだ。そんな彼らの最大の楽しみが、カンガルー狩りである。彼らは楽しむためだけに狩りを行い、カンガルーを殺戮する。この強烈なカンガルー虐殺のシーンがこの映画最大の見せ場であり、オーストラリアが世界に公開することを嫌った最大の理由だろう。

 

このカンガルー虐殺のシーンは、本当にカンガルーが殺されている。当然だが監督が映画のために殺させたわけではなく、当時のハンターがカンガルー狩りをする様子を撮影した映像を、編集によってつなぎ合わせることによって、リアルで生々しい強烈なシーンを生み出している。当時はカンガルー狩りが問題になっており、それをアピールして問題意識を持ってもらうために、そのような映像を動物愛護団体から借りて使用したのだそうだ。

 

本当に人生に退屈した人間は、酒や女に溺れ、狩りをして快楽を得るしかない。善意の酒によって快楽の白昼夢に陥ってしまった人間がどのような末路を辿るのか。どれだけ主人公が頑張って抜け出そうとしても、起きてみたら泥酔して二日酔い。その連鎖にとらわれて、永久に抜け出せない。酒酒酒、酒を飲んで動物を殺し、酒を飲んで暴れ、そして酒を飲む。善意の酒を断れなかったばかりに、地獄へと突き落とされる。どれだけ頑張っても決してその場の同調圧力のようなものから抜け出せず、堂々巡りをするところは、フランツ・カフカの作品を彷彿させたりもする。映像化で言えば、ミヒャエル・ハネケの「城」よりもこの映画の方が強烈で面白いが。ただ敢えて言うならば、この映画はラストの終わり方がヌルい気もするが、これだけ魅せられれば文句を言う気にはなれない。

 

 

 

 

これを見れば、アルコールがドラッグの一種であることもよく理解できる。主人公たちはアルコールを摂取することでハイになり、そして殺戮の限りをつくすのだから、弁明の余地もないだろう。我々はアルコール=ドラッグであることを十分に自覚的になった上で、この日本ではたまたま合法なドラッグであるアルコールを、良識の範囲内で楽しもうではないか。

 

 

でなければジョンのように、地獄に囚われることになるだろう。

 

 

囚われるのも一興かもしれないが。

 


映画 『荒野の千鳥足』 予告 - YouTube