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象牙色の立体

映画などについて書きます。

人間の割り切れなさを奇妙なタッチで描いた「薄氷の殺人」

新進気鋭のディアオ・イーナン監督作「薄氷の殺人」観ました。

後半ネタバレ注意です。

 

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これは、本当に面白い映画でした。映画を観ている間に、そこそこだなーという感じの映画ならばときどき△ボタン(大体プレステで映画を観ているので)を押して残り時間を確認しながら観るのですが、そんなことも忘れて画面に食い入りながら「これはやばいな...」「すごい、これはすごいぞ...」と独り言をつぶやいてしまう映画が年に数本あります。それが、今年始めてやってきました。

 

それに加えて今回は「頭おかしいだろ...」というつぶやきも追加されていましたが。

 

 

 

さて、ディアオ・イーナン監督は中国映画の気鋭監督のようで、日本公開とソフト化は本作が初めてだそうです。なぜこの映画が初公開かというと、ベルリン映画祭で金熊賞と銀熊賞を同時受賞したからですね。かなり凄いですし、その価値は全くもってあると思います。

 

まず素晴らしいポイントは、誰もが言っている部分でありますが、バリバリと心を削ってくるような映像美と演出。極彩色な映像と実は綿密に計算された演出が独特のクールさを出しながらどこか味わい深い。強烈な赤や緑色の照明が顔に当たり、それによって登場人物たちの心情を表しているのもうまいです。そんな中で特にすごいと思ったのは、やはりアイススケートのシーンと銃撃戦のシーン。

 

特にアイススケートのシーンは、本当にこの映画の白眉ですね。黄色の照明の中を主人公たちが回るのですが、顔に当たる照明の方向がチラチラと変わることで、主人公たちの希望と闇を行き来するような不安定な心情がバリバリと伝わってきます。また、その後の彼らのスケートチェイスもすごい。スケートをする登場人物を正面から撮っているのですが、焦点は登場人物にしか合っておらず、後ろはすべてぼんやりとしています。このシーン結構さらっと流れていますが、かなり技巧的です。

 

このように焦点を絞るにはできるだけ被写界深度を浅くしないといけないのですが、それにはよく望遠レンズが使われます。スケートのようにグイグイ動く対象を撮るときは特に難しく、少しでもカメラと人間の距離が変わるとピンボケしてしまいます。さらにこれは夜の撮影で光量が少ないという状況。こういう難しい撮影や奇妙な演出をさらっと次々に出してくるので、いままであまり観たことがないような新鮮さがあります。

 

 

しかし、何よりもこの映画が面白いポイントは独特の「ふざけ感」です。重厚な演出、玄人っぽい色彩美の映像を観せてくるので、観客は玄人志向の映画好きのための映画だ思いがちですが、明らかに狙ってふざけています。

 

3Dメガネで映画を観るのを滑稽に撮ったり、超デブいおばさんが真剣な現場に居合わせていたり、廊下に出たらなぜか馬がいたり、実はシュールでオフビートな笑いに溢れているのです。それで、「あれ?これは狙っているのか?」という違和感が徐々に蓄積していったときに、急にめちゃくちゃダサい音楽に合わせて、今まで真面目な顔面をしていた主人公がダンスを始めるんですよ。これは、確信犯だと気付いて笑うしかない。真面目なのかふざけているのか一体どっちなんだと思って変な汗が出てくるのです。

 

 

 

しかし、この映画の「ふざけ感」が映画のテーマそのものにつながってくることにラストで気付く。この映画のテーマは、人間の割り切れなさ。

 

人間は利益を取るのか、愛情を取るのか、たとえどちらを選択をしたとしてもそこできっぱりと割り切れるわけではない。自分の感情と理性の間で、滑稽だが真面目に踊り狂うしかないというのを、究極にダサい音楽で踊るダンスが表していたのです。

 


映画『薄氷の殺人』予告編 - YouTube

 

 この予告編だと相当暗い映画のようですが、実際見た印象は全然違いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーネタバレ注意ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映画的演出が多すぎておそらくラスト部分が分からない人もいると思うので、ラストシーンについて少し。ラストで白昼の花火をしているのは主人公ジャンです。

 

ジャンは99年の事件で、怪我をして刑事課を続けることができなくなりました。本人は負け犬であり、そのせいで常に酔っ払い人生に絶望していました。そこで、再び因縁の99年の事件と偶然にぶつかり、酒も絶ってそれに没頭することで自分が復活するチャンスをうかがっていたのです。しかし、そんな中でファムファタールであるウーに恋をしてしまう。ウーが99年の殺人犯だと気付いても、それを話してしまうとお互いが離れてしまうので、隠したまま過ごしていくのかと思いきや、自分の復活のためにラスト近くでウーを警察に売ってしまうのです。再び地位を取り戻すジャン。

 

しかし、人間というものは割り切れない。ラストの花火でジャンが再び酔っ払いながら上げている花火を観て、観覧車で二人で見た因縁の場所「白昼の花火」を思い出す。ジャンは、白昼に花火を打ち上げることでジャンが愛しながらも裏切ったウーにもう一度愛を表明するのです。裏切りながらも持ち続ける人間性、どちらも罪深く利己的でありながら、だからこそ味があるエンディング。