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象牙色の立体

映画などについて書きます。

さらば、愛の言葉よ

ゴダールの最新作でかつ初の3D映画、「さらば、愛の言葉よ」観ました。

 

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ゴダールの最新作というだけならば、別に気張って観に行くことはなかったでしょうが、ゴダールが3D映画を撮ったとなるとさすがに観たくなります。「勝手にしやがれ」でゴダールが映画の定石をぶち壊して全く革新的な映画を撮ったのと同じように、いままでの3D映画の定石をぶち壊し、何か革新的なことをしてくれるに決まっているに違いないという確信があったからです。「勝手にしやがれ」を観た当時の観客の衝撃を、当時のままとは言わないまでも、その100分の1ほどでも衝撃を追体験できるのではないかと、情報を聞いた時からワクワクしていました。

 

さて、ゴダールゴダールと言ってきましたが、ジャン=リュック・ゴダールのことです。彼は、ヌーヴェルヴァーグと呼ばれるフランスにおける映画革命の旗手であり、60年代映画界の革命児であり、御歳84の生きる伝説と言っても過言ではないでしょう。彼は映画に自意識をもたらし、自由をもたらし、そして若い映画作家に勇気を与えました。当時の映画界は厳しく、何年も修行を積んだ者達しか映画を撮らせてもらえなかったのです。それをゴダールの路上演出と即興演出によって、お金も経験もない若者でも、感性だけで映画を作ることができるのだ、となったのです。ゴダールは難解で頭でっかちだと思われる映画好きの方も多いと思いますが、当時の彼は映画界を変えようと必死に生きる一人の青年であったのです。ヌーヴェルヴァーグは肩の凝る難解な映画運動なのではなく、フランスの若者たちの青春であったのです。この辺りは、「友よ映画よ、我がヌーヴェルヴァーグ誌」に詳しいです。

 

増補 友よ映画よ、わがヌーヴェル・ヴァーグ誌 (平凡社ライブラリー)

増補 友よ映画よ、わがヌーヴェル・ヴァーグ誌 (平凡社ライブラリー)

 

山田先生とヌーヴェルヴァーグの旗手たちの当時の交流を描いたエッセイ。フランスでの生の体験が描かれているとともに、先生の青春エッセイとしても傑作なので、興味ある人は是非。 当時からゴダールは気難しかったんだなぁ...

 

彼が映画で行った斬新な手法は枚挙に暇がありません。当時はしっかり脚本を作ってセットで撮ることがほとんどだったときに路上での即興演出を始めました。それ以外にも、「勝手にしやがれ」で初めて使われたジャンプカット、「勝手に生きろ/人生」で効果的に使われているストップモーション、「パッション」で多用される口の動きと全く異なる言葉を発する登場人物、「気狂いピエロ」での観客への話しかけ、「はなればなれに」での前触れなく始まるミュージカルなど...とにかく新しく、そして新しいがその試みは映画のストーリーを崩壊させてしまうレベルの突飛なアイデアが多いです。彼は映像における新しい表現の限界を追求しており、その上で成功している唯一の映画人なのです。

 

 

そんな男が3Dで映画を撮ると、どんな映画ができるのか。 

 

そもそも、3Dで映画を撮るとなると我々が最初に考えることが「没入できる」「より現実体験に近くなる」ものがより良いと考えがちであり、いままでもその方向で技術開発と改良が進んできました。しかし、ゴダールはやはり違います。全く異なる方向で攻めてきました。今回のゴダールは初3Dということもあって、やはりかなり生き生きとカメラと遊んでいました。

 

そんな素晴らしい映像表現の中でも、今回最も鮮烈な表現は「右目と左目で全く異なる映像を映す」ということ!そもそも3D映像というのは右目の映像と左目の映像を孤立に映し、その誤差によって立体に観せるという方法なので、3Dメガネをかけた左目と右目はもともと微妙に異なる映像をみせられているのです。

 

具体的にいうと、例えば二人の男女の会話シーンです。彼らが会話をしているときは普通の3Dにみえているのですが、男が右に動き始めて画面外に移動しようとすると、右目の映像だけが男を追っていき、左目の映像は止まったままで女性を映しています。当然右目の映像と左目の映像は全く異なるため、頭では統合できず、「どうすればいいのだ!頭が狂いそうだ!」という体験をすることができました。さらに、ところどころ明らかに3Dにならないような極端な差異をもった映像をみせられるので、目の焦点がうまく合いません。

 

例えば、現実世界で左目だけが物体に背景を遮られて、右目ではその背景が見えているとき、その物体が半透明に見えることがありますよね?

 

それが映画でもそのまま体験できます。

 

そのほかにも斬新な3D作用が満載で、それは映画館で楽しんでいただければ良いのですが、このような3Dでの革命を最初にやった人間は50年前と同じゴダールであったということに、やはりゴダールの創造性の凄さを改めて思い知りました。

 

 

 

 

 

まだまだ、ゴダールの青春は終わっていない。

 

 

 


『さらば、愛の言葉よ』日本版予告篇 - YouTube