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象牙色の立体

映画などについて書きます。

ホーリー・モーターズ

ホーリー・モーターズについて書く前に、まずはこの予告編を観てください。

 


Holy Motors Official Trailer #1 (2012) - Denis Lavant ...

英語版の予告編です。日本語版よりこちらの方が出来が良いので。

 

 

この予告編を観て、「ああ、この映画は頭狂ってそうで観てみたい!」と思った人だけにお勧めします。ホーリー・モーターズの監督であるレオス・カラックスは以前、アレックス3部作という超傑作映画を3作を撮った後、業界を干された映画監督です。

 

私はアレックス3部作の2作目『汚れた血』は今まで観た映画の中で一番傑作だと思っているのですが、これは語りだすと終わらないのでまた後日気が向いたら書きます。

 

監督が干された理由は、アレックス3部作の最後の作品である「ポンヌフの恋人」を撮ったとき、監督自身があまりの完璧主義者のせいで、制作費がかかり過ぎて映画配給会社が倒産してしまったからです。彼は倒産に見合う世紀の傑作(ラストシーンをタイタニック(手を広げる行為)で模倣されたことでも有名)を撮りあげましたが、それ以降22年間、彼の監督した映画は1本しかありませんでした(ポーラX)。そんな強迫観念を持った監督が撮った最新作は、やはり彼が天才であることを証明するような作品に仕上がっていたのです!

 

とりあえず、映像美を観てみてください。

なんですか!天才なんですか!!

 

「2時間のあいだ、どの場面で一時停止したとしても全てが絵画のように美しい映画」というのは、映画の一つの到達点であると思いますが、カラックスはそれに限りなく近い映画を撮る監督の一人で間違いないでしょう。CGも全く使わない、映像だけでワクワクできます。ストーリーなんて正直必要なくて、これだけでもう☆4つ分獲得でしょう(☆5が最高だとしたらね)。

 

 

いままで監督は、アレックス3部作(主人公がアレックスであるからこう呼ばれる)で自分自身の映画に対する姿勢や、映画史をゴダールなどの作品を下地に表現してきました。「ポンヌフの恋人」のラストで「自分は好き?」と聴かれて「ああ」と答えるように、彼は自分の生き様や映画に対する価値観をドニ・ラヴァンが演じるアレックスという人間を通して表現してきました。しかし、今回の映画では、今まで監督の分身であったドニ・ラヴァンは一人で12役演じています。

 

 

 

映画冒頭。

 

ドニ・ラヴァンが演じる主人公のオスカーは、リムジンに乗っています。運転席では謎の女性。リムジンでは、飲食店のメニューのようなものが置いてあり、それを開くと、とある人物の詳細について記されています。

 

オスカーは、そのメニューにしたがってリムジンの中にある化粧道具でメイクをし、リムジンから出てその人物を演じるのです。ある程度演じきると、またリムジンに戻って、次の役のためにメイクをします。

 

緑色の服を来たホームレス、物乞いをする女性、父親、殺し屋、モーションアクターなど、指令に従って多くの役柄を演じます。 

そういう奇妙な仕事なのです。

 

何ですかその仕事。訳が分かりません。

 

なぜ、そんな仕事をしているのか。なんのために。

それは最後まで全く分かりません。

 

 

しかし、この仕事が(映画監督)であり、(俳優)のメタファーであることは分かります。ちなみにリムジンは撮影機器のメタファーでもあります(ホーリーモーターズとは?という問いは無粋なのでここでは省略しましょう)。

 

本質的にはアレックス3部作と全く同じテーマです。

 

 

 新しいストーリーで映画を撮り続けて、常に自分の人間性を切り崩し、疲弊していく、「映画を撮ると言う行為」。そしてその「行為の美しさ」。デジタル技術が隆盛し、画面に虚構が蔓延していたとしても!昔戦った映画監督達がそれによって脱落していったとしても!!

 

それでも映画を撮り続けなければなりません。

自分自身を削りながらも映画を撮らなければ。 

 

「自分の人生はこれしかないのだ、これしか出来ないのだ」

...と言う監督の強烈な想いが画面から痛い程伝わってきます。

 

 

映画に妄執し、映画に囚われたレオス・カラックス監督が、笑いを混ぜながらこの映画を撮ったという事実。それだけで涙が出そうになりませんか。

 

 

シュールな笑いに満ちた映画なので、「何だこの映画」と笑って、映像美を楽しむだけでも十分価値のある時間を過ごせると思いますし、さらに、レオス・カラックスという監督を知っていると、映画ファンに一目置かれると思うので、興味を持ったら観てみてはいかがでしょうか。そしてそのときは、アレックス3部作も是非。