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象牙色の立体

映画などについて書きます。

社畜と家畜のすばらしい世界

渋谷イメージ・フォーラムで「カレ・ブラン」を観ました。

 

ディストピア(理想郷の逆) SF(サイエンス・フィクション)です。

これは確実に観よう!と思った理由は以下の下馬評から。

 

「THX1138」「時計じかけのオレンジ」の遺伝子を受け継ぎ、ハネケ、ギャスパーノエの持つ危険な空気をまとった近未来暗黒譚!

ーパンフレットより

 

このディストピアは未来というよりもパラレルワールドを観ている気にさせる。一見、我々の現実と無関係のようだが、アルベール・カミュやオルダス・ハスクレー、フランツ・カフカのような鋭く洗練された社会的主張を感じる!

ーSmells Like Screen Spirit:Don Sipson

 

これだけ自分が好きな作家と作品がずらずらと列挙されてたらテンションも上がります。同時にこれはヤバそうな匂いがするな、とも思いましたが。

 

あらすじ 

フランスの新鋭ジャン=バティスト・レオネッティ監督が、全体主義や社会の不条理を冷徹な眼差しで描いたSFディストピア。思考や感情が統制された近未来。完全な管理のもと、人類は「社畜」と「家畜」に分類され、弱者判別テストで不合格になった家畜は、人肉として社畜の食卓に提供される不条理が繰り返されていた。幼いころから思想教育を受けてきたフィリップとマリー夫婦は、社畜として不自由ない生活を送っていたが、やがてふたりの間に亀裂が生じはじめ……。

 

 

 

 

 

いやあ...なかなかの暗黒譚でした。

 

内容としては管理社会、全体主義社会での愛のかたちという部分に終始しています。管理的な環境で、どのようにお互いを愛するのか。それはまさに実験でした。彼らの世界では、他人に迎合する者ばかりにもかかわらず、他人に迎合する者が毛嫌いされます。

 

「自ら袋に入るものは、生きてる価値はない」

 

 自ら周りに流されて、他人に迎合して、袋に入る人間には、生きている価値はない。全体主義が常識化した世界では我々は無意識に自分の意見を持つことが出来ません。自分の尊厳や立場を保つためだけに、精神までもいつのまにか犠牲にし、周りに迎合します。しかし、この社会から意識的に抜け出して、真の愛を勝ち取ろうとするならば、自分の命をかけるくらいの覚悟が必要なのです。命が惜しければ、見て見ぬ振りをして理不尽な社会に迎合するしかありません。

 

結局、我々の社会でもそうですね。社会の規範が不自然で理不尽だと感じていても、そこから逃れるのは難しいです。他人に嫌われて変わり者扱いされるか、それこそ命をかける覚悟が必要です。なぜなら、全体主義を崇拝する人間や、それに妥協した人間が、世の中の大部分なのですから。私も含めて。

 

 

 


また、この映画は、ブラックコメディの要素も含まれています。

 

この映画の世界では、生きるか死ぬかをかけたゲームを毎日やらないといけないのですが、そのゲームが、「たくさんの電話機の中で、鳴っている電話機を数分以内に見つける。」だとか、「壁に背中をつけたまま後ろに下がれ」だとかどれもバカバカしいものばかりです。それに参加者が血相を変えて取り組むので、当然それは笑いになります。

 

監督は、全体主義の特別なルールをわざと滑稽に描いているのです。つまり、我々の社会のルールや規範は、俯瞰的に観るとこれだけバカみたいなのですよ、と監督は伝えていました。

 

結局この映画は、我々の社会をそのまま描いただけでした。

エンターテイメントのために、すこし刺激は強めにしているかもしれませんが。

 

 

 

映像に関しても暗澹とした空気が伝わってきて、すごくいいです。登場人物の閉塞感のある精神を表現するするため、目線を映さないように照明を逆光がちにしているのは印象的です。 窓に映る女性の髪型だけ見えて、顔が全く映っていないシーンには痺れますね。

 

しかし、私が最も痺れたシーンは中盤過ぎの妻が警備員に話しかける一連の流れです。

 

 この痺れシーンまで、この映画にはBGMがほとんどなく、統制社会を象徴したかのようなミニマル・ミュージックみたいな音楽と「子供を産みましょう」というしつこい放送とともに流れるジングルだけ。しかし、ここでしつこく繰り返してきた放送を完璧にこのシーンの流れに合わせることで、いままで統治の象徴だったジングルが妻の心情を描写する音楽に反転するのです!

 

この瞬間は鳥肌ものでした。

言葉で説明しきれているか分かりませんが。 

 

新人なのに凄い作品を撮る監督ですね。これからも注目したいところです。

「THX1138」「時計じかけのオレンジ」が好きな人は観ても損はないと思います。

 

 


『カレ・ブラン』予告編 - YouTube