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象牙色の立体

映画などについて書きます。

あやつり糸の世界と鏡の使い方

 本来の目的は遊びじゃないですが、東京に行ってきました。本来の目的は遊びじゃないですが東京には誘惑がたくさんあるので、遊びたくなるのです。秋葉原のアニメイト、御茶の水のジャニスとアテネフランセ文化センター、美術館の数々、高円寺とか吉祥寺周辺....など。

 

 

 今回は東京現代美術館と、アテネフランセ文化センターに行ってきました。

 

 東京現代美術館に行ったのは坂本龍一監修の「音楽とアート展」をやっていたから。特に、「ジョン・ケージ4分33秒を2回聴く」という企画はなかなか面白かったです。現代音楽家、ジョン・ケージ4分33秒という曲は、演奏者がピアノの前で4分33秒間「全く何も演奏しない」という曲です。楽譜には、

 

第1楽章

休み

第2楽章

休み

第3楽章

休み

 
 ...とだけ書かれています。このケージの4分33秒は鑑賞者に「無音という世界は存在せず、鑑賞者自身から発生する音や、生活音ですら音楽として認識する」という発想のもと作られたものです。ケージは4分33秒によって、音楽の概念を大きく広げました。そんな4分33秒をみんなで2回聴こう!!(言い換えると、9分6秒間みんなで黙ってよう!!)という単純な企画だったのですが、この「2回も聴く」というしつこさが絶妙でした。youtube初音ミク4分33秒があったので一度聴いてみてはいかがでしょう。
 
 
 
...そして今回のもう一つの目的である映画鑑賞。
 そのために、アテネフランセ文化センターに行ってきました。観た映画はライナー・ヴェルナー・ファスピンダー監督の「あやつり糸の世界」。1973年に公開された映画なのですが、今まで日本で劇場公開されたことはなく、もちろんDVDもありません。観るには、字幕のない北米版のDVDを買うしかありませんでした。
 
 
 

 

 
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ファスピンダー / あやつり糸の世界
 
 
 それがようやく2日間だけそれぞれ1回ずつ公開されるということで、映画館はもう映画オタクの巣窟でした。僕は東京の映画好きの友達と観に行ったのですが、映画館には友達の知り合いとかいて喋っていたのでなんか引きました。
 
 ライナー・ヴェルナー・ファスピンダーはニュー・ジャーマン・シネマと呼ばれるドイツの1960代に出てきた素晴らしい映画監督たちのうちの一人です。正直ライナー・ヴェルナー・ファスピンダーの映画は初めてだったので詳しくは知りません。初めて観るファスピンダーの映画で、異色作と言われている「あやつり糸の世界」を観るのはどうかと思いますが。
 
 
 
 「あやつり糸の世界」は、簡単にいうと仮想現実系SF。「マトリックス」や「攻殻機動隊」が公開される数十年も前に、こういうサイバーパンクのSFが映像化されていたことには驚きます。まあ内容は普通のサイバーパンクSFと特に変わりがないので置いておきましょう。しかし、演出面にスポットを当てると、とにかくこの映画には「鏡」が利用されていることがわかります。もちろん鏡は仮想現実のメタファーとして捉えることも出来ますが、ここでは演出の面で鏡の役割について考えてみます。
 
 まず、鏡を使うことで登場人物を一つの画面にとどめておくことができます。なぜなら、鏡が持つ物体を映す性質によって、画面に収まらない範囲をカバーすることができるからです。もし、鏡を画面中央に配置したとして、その鏡の向かい側に人を立たせると、通常なら画面の外にいるハズの人物を画面中央の鏡の中におさめることが出来ます。つまり、この技によって、無駄なカットを繋ぐ必要がなくなります。
 
無駄なカットを繋ぐ必要がなくなるとはどう言うことか。
 
 例えば、向かい合う人物が会話するシーンを撮る場合、言葉を発するたびにその人物を画面におさめるのが普通です。言い換えるなら、AとBという登場人物がA→B→Aという順番で会話をする場合、カメラはAを映し、次にBを映し、そしてもう一度Aを映す、という具合になるでしょう(一般的な話です)。しかし、鏡を使うことでA→B→Aの会話を一度もカットすることなく、同一の画面におさめることが可能になります。Aの横に鏡を置いて、その鏡の中にBが映るようにすればよいのです。そうすると、Aを撮ることで、同時に鏡の中のBを撮ることが出来るので、A→B→Aとカットを繋がなくても、Aをずっと撮っておくだけで、そのシーンは成り立ちます。
 
 
一般的なカット
『二人の男性.AとBの会話』        

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A「Aが話す」

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B「Bが話す」

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A「Aが話す」
 
 
鏡を用いたカット
『手前の女性.Aと鏡に映っている奥の男性.Bとの会話』

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A「Aが話す」
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B「Bが話す」
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A「Aが話す」
 
 この技術をさらに応用することによってファスピンダーは、長回し(カットせずに長い間カメラを回し続ける技法)で、画面もほとんど動かさないにもかかわらず、登場人物を縦横無尽に動かすことに成功しています。映画を観てみないと分かりませんが、これはほとんど完璧と言えるものです。さらにファスピンダーはこの技術を多用することで仮想現実の窮屈さと箱庭感を演出することにも成功しており、もはや鏡の使い方はこの一本だけで凄まじいレベルに到達していることに驚愕しました。
 
 
 
この素晴らしい鏡の使い方を観るだけでも、この映画を見る価値は十分にあります。
 
 
 
 どうでしょう。「あやつり糸の世界」を観たくなりましたか。でも僕は残念です。なぜなら、次に日本で公開される日はいつになるのか全く分かりませんから。北米版の予告編はyoutubeにあがっていましたので、今回は予告編だけでも「あやつり糸の世界」を楽しんでいただければ、と思います。